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Interview vol.15
綾戸智恵×竹下雄真

もちろん
年齢に負けたくはないけれど、
まずはおいしい、楽しいと言える自分でいたい。
そのためには、
ちょっとの我慢も必要かも。

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綾戸智恵(あやど・ちえ)1957年9月10日生まれ。大阪府出身。幼いころからジャズに親しみ、高校卒業後に渡米。ライブ活動を行う。1998年に日本でデビューし、2000年度の第51回芸術選奨文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)受賞。2003年には紅白歌合戦にて『テネシーワルツ』を歌った。母親の介護を現在も続けるなどの豊富な人生経験と大阪弁の気さくなキャラクターから、コメンテーターなどテレビ番組への出演多数。7月23日にニューアルバム『Picture in a Frame』をリリース

竹下雄真(以下:竹下):
綾戸さんとは、知り合ってもうだいぶ長くなりますね。

綾戸智恵(以下:綾戸):
10年以上になるね。トレーニングを始めた時に、マッチョ(=竹下)が担当してくれたのがきっかけ。当時、体重が変わっていないのにズボンが入らなくなって…。太っていたわけではないから無理に痩せようとは思わなかったけれど、上にあった肉が下に落ちたんや、これはいかん! ということで。だいぶ一所懸命やったね。

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竹下 :
はい。相当、ストイックでした(笑)。

綾戸 :
そんなことないわ! あれぐらい普通やから。せっかくお金払って行くのに、効き目なかったら仕方ないからね。私は元を取りたいタイプだから、マッチョを目いっぱい働かせたかった。だから、どうやったら元気になるの!? 秘密をもっと出して! ってすごい勢いで迫って(笑)。それまで経験がなかったので「えらいことすんねんなぁ〜」と思ったけれど、海に突き落とされた心境(笑)。泳がなしゃあない。せっかく入ったし入会金をムダにするのが嫌やったから、とにかくズボン履けるようになるまで頑張ろう、と。でもそれどころか、もっと小さいサイズのズボンも大丈夫になったけどね。

竹下 :
当然ながら、綾戸さんはリズム感がすごい。スポーツもトレーニングも、リズム感はすごく大事です。ウエイトトレーニングの正しいフォームや呼吸を覚えるのには普通、時間がかかるものですが、綾戸さんはすっと入れた。

綾戸 :
それはあったかも。でも私だけやったね、息子の体操着を着て行ったのは(笑)。オシャレなカッコで行きたかったけれど、まだ体ができていなかったから恥ずかしくて。

竹下 :
トレーニングはギリギリまで追い込みましたね。物足りないと、もっと足して! とおっしゃるから(笑)。

綾戸 :
最初にトレーニングした翌日、筋肉痛で便座に座れなかったわ。うりゃあ! って思い切って座ったのをよく覚えてる(笑)。とにかく、早く筋肉をつけたかった。私はエレベーターに乗っても、階のボタンを押す前に「閉」ボタンを押すタイプ。普通の人が10万円かかるところを、2万円ぐらいで健康になりたいなと(笑)

竹下 :
欲張りだなぁ(笑)。綾戸さんはトレーニング中に必ず、どこの筋肉に効くのか、そして、どんな呼吸で行うべきかを聞いてこられていましたね。

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綾戸 :
いつもそうやったね。どこに効いているの? こうやってやるのはダメなの? って。病院行った時も聞くもの。これどんな薬? どこに効くの? 副作用ないの?って(笑)。

竹下 :
ちゃんと説明しないと怒られたのを思い出します(笑)。そもそも大人ですから、トレーニングの目的がきちんと理解できていて、ご自身も納得しないと続きませんから。

綾戸 :
体を使う仕事だから、全部言うてたね。ここがつるねん! とか。でも続けるうちに、重いものが軽く感じられるようになった。掃除機をかけたり洗濯物を持ったりする時に、明らかに違いがわかった。体幹が鍛えられたから、洗濯物を持ち運ぶ時なんかもお腹を中心に使うとか、効率よく動けるようになった。ライブもそう。走り回っても息切れせえへん。最後のお辞儀も最初に真ん中でしてから、大阪のオバハン走りで端っこまで行き、もう一度お辞儀すんねん。ライブは1回で2kg痩せるぐらい体力が必要やけど、それでも息切れせえへん。

竹下 :
食事もかなり気を使われていましたね。

綾戸 :
一時は、鳥のささみとキノコと卵の白身ばかり(笑)。卵を1ケース買ってきて、スタッフみんなが黄身を食べさせられて、私が白身を4つ5つ食べる。思うんやけど、痩せたいから、というダイエットは長続きしない。私がなんでギブアップせえへんかったかというと、長生きしたいと思ったから。だから、体にいいものを4日間食べて、1日はむっちゃ体に悪いものを食べたりね。ダイエットしている人って、太りそうなものは1日も食べない。それは続かへんと思う。無理矢理はなく、元気に。自然に続けていけるやり方がいい。私、あまりお肉食べへんねんけど、牛タンはめっちゃ好きやねん。だから、焼肉食べに行ったら牛タンを好きなだけ食べられる自分になりたかった。牛タン食べても平気な自分になるためにトレーニングしたようなもの。普段は気を使いながら、たまにどこかで朝から晩まで油ギトギトなもの食べても大丈夫なように。

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竹下 :
でも、ライブやレコーディングをこなしながら体調を維持するのは、なかなか難しいと思いますが…。

綾戸 :
それが私、あまり考えてないねん(笑)。大事なのはやっぱり食事やね。例えば韓国の人は辛いものをよく食べるけれど、それが原因で胃に穴が開く人はいない。お肉をたくさん食べるイヌイットの人に野菜を食べてダイエットせえ言うたって、調子を崩すはず。自分の国の料理が一番やと思う。そういう意味で、私の食生活は和食中心。昔からそれほど変えていない。昔からネバネバ糸を引くものが好きでね。モロヘイヤとか納豆とか、オクラやなめこ、山芋とか。で、たまに牛タンを食べたい(笑)。一番大切なのは体質やと思う。でもマッチョ達は自分を知っているから、多少食べ過ぎてもコントロールできるでしょう?

竹下 :
そうですね。僕らは体重を上げるのも下げるのも、必要に応じてすぐにできます。でもダイエットに失敗する人は、自分がどうなっていくのかをイメージできないことが多い。人間にとって、わからないことほど怖いものはない。なぜ体重が、ウエストのサイズが落ちないのか。専門家に正しいことを言ってもらわないと、わかりませんよね。でも適切なアドバイスがないから、恐怖がつのった結果、諦めてしまう。そんな失敗がよく見受けられます。小中学生だったら、おい、やれ! でいいですが、大人はそうはいかない。どうやってその人のやる気を引き出すか。トレーナーとしては、そこがとても大事です。

綾戸 :
健康って何だろう、と考えさせられるのは、家族に病気の人間ができた時やね。母が10年前に倒れた時、まず息子の顔を見て「この子に私の世話をさせたくない」と思った。昨日まで元気だった人が倒れた時、健康の大切さを痛感する。だから、この本(『ロコモサイズ 美筋ダイエット』光文社刊)を読んで、ロコモサイズをやらなきゃ、と思うねん。大事なのは、一人で生きていけること。それが幸せにつながる。もちろん友達は必要やで。その上で、一人で立てて、一人で食べられて、一人で寝られる。自分で食える言える、が原点なんです。だから、あまり健康健康と意識しすぎてもダメ。その点、この本はちょうどええやん、神経質じゃなくて(笑)。病人の皆さん元気になりましょう、という本じゃないし、難しいことも言うてない。だから、一家に1冊あっていい本やと思うわ。

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竹下 :
僕が特に思うのは、心と体はつながっているということです。心が元気じゃないと何もできない。心が病んでいたら、トレーニングをしようなんて思いませんからね。そういう意味で、綾戸さんが常に心がけていることはありますか?

綾戸 :
どうせいつか死ぬ、と開き直ること(笑)。悪いことしたら「いつか死ぬから待っといて、ごめん。死んでから言うて〜」って。大事なのは、いい仕事をして生ビールを飲んで「ああおいしい」と言える毎日を送ること。この本を読んでロコモサイズをやって、しっかり体が動けば、いい仕事ができる。そうすれば生ビールもおいしい。

竹下 :
この本のトレーニング内容は、プロとしてきっちり考えたもの。今の世の中には、健康になるためのものはいっぱいある。その中の一つの選択肢として、僕らが今ベストだと思うものを提供させてもらっています。

綾戸 :
効くね、これ。ロコモサイズでは、日常生活のすべての動きが運動として考えられている。人はそれぞれの年齢で、立場で、自分の健康を意識するもの。その点、私はいつまでも若くいたい、とは思わない。もちろん年齢に負けたくはないけれど、まずは最低限、おいしい、楽しい、と言える自分でありたい。そして、そのためにはちょっとの我慢も時々必要なのかもしれない。そんなスタンスやね。

竹下 :
そうそう。話変わりますが、PV撮影ではありがとうございました(笑)。(※綾戸さんの最新シングル『Rehab』のPVに出演)

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綾戸 :
最高やったね。もともと、アルコール中毒のリハビリ施設に入った時の体験を元にした曲やねんけど、みんな元気になろうよ、という意味でカバーしました。PVはコシノジュンコさんが謎の人物として出てきたり、すごくユニークな内容。マッチョと看護婦とのやり取りもいい感じで。

竹下 :
設定は綾戸さんが考えたんですよね?

綾戸 :
私が考えたものを、監督が絵にしてくれた感じやね。私は総監督みたいなもの。全体の流れと、強い女とかわいい女が出てきて、強そうな男は本当は弱い、世間も病院も一緒、というメッセージは私が考えた。患者の男の役は、二枚目の細面も考えたけれど、強そうな男というと、私の頭にはマッチョしか出てこない。だから細面をやめて肉体派に(笑)。そして病院という設定も、病んだらあかんで、元気になろか! という意味合いです。この曲の入ったアルバム『Picture in a Frame』は、前の事務所から独立してから最初のアルバムなので、好き勝手したいと思って作りました。すべて、自分から湧き出てきたものやから。

竹下 :
テレビ番組(ノンフィクションW 綾戸智恵 その歌声が変わった日 〜父と母の痛みを抱いて〜 WOWOWにて2014年7月10日放送予定)の企画で、綾戸さんは実父を探す旅に出られたそうですね。その影響もあったのでは?

綾戸 :
詳しいことは番組を見てほしいんやけど、一人じゃないんだ、と思えるようになった。私は昭和32年生まれだけど、その前から命はずっとあって、生まれてくることは決まっていたんじゃないか。そんな気がして…。私の家族は母と私と息子の三人だけ。親戚もぜんぜんいないから、今までずっと、私は一人だと思って生きてきた。でも、父親がいたことがわかった。すると、またその向こうにも誰かいるのかも、という気持ちになった。家族という脈々と続いてきたもの。それを感じることができたことで、強くなれたね。よくないことが起きたとしても、自分は守られているから大丈夫。この世にこうして生まれてくることが決まっていた自分が、そんなエラい目に遭うはずがない。これしきで倒れるはずないやないか! と思える、強さを持てるようになった。

竹下 :
素晴らしいことですね。

綾戸 :
番組の撮影を通じてわかったのが、今まで、自分の人生は自分で作ったものだと勘違いしていたということ。今までに何度か、もっと他に道があるんじゃないか、本当に音楽でいいのか、と思ったことがある。でも、生まれてくることが宿命づけられているならば、生まれてから何をするかもすでに決まっているはずやねん。線路が引いてある。それは生まれた時に神様が一緒にくれたもの。それなのに、まるで自分で線路を作ってきたように思ったらあかん。今、将来何をしたらいいかわからず、試行錯誤する人って多いでしょう? 本当のところ、それは10代までだと思う。迷っていたらすぐ年寄になってしまうから。

竹下 :
ある程度迷っても、一度やると決めたら精進してやり通すことが大事だと思います。

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綾戸 :
与えられたことをやり通したら、結果は出る。私なんてもちろん、もう迷う年齢やないからね。体の自由、心の自由…そもそも、自由は一生あるものやない。どこかでそれを知って、決められていることをやり通すこと。迷える90歳なんてカッコ悪いやん(笑)。ある程度の年齢になったら、それが向いている向いていないではなく、やるべきことは決めるべきだと思う。

竹下 :
綾戸さんがやり通すのは、もちろん歌うことですよね。

綾戸 :
もちろん。だから私は例え映画に出ても、女優として演技はしない。このキャラクターで、歌を歌っている綾戸智恵として演技をする。すべてがシンガーの私。もちろん、若い人が道を外れることはある。それは仕方ない。でも40歳、50歳になって迷っていたらダメ。今していることを、変えずにやり遂げるべきだと思う。

竹下 :
僕も学生のころからトレーナーの勉強をして、アメリカに行ってパーソナルトレーニングジムでトレーナーをしていました。そんな流れの中でも、僕はもっといろいろなことができるんだ、という思いがずっとあった。他のことなんて何もしたことがないのに、自分はどんなことでもできる、と思い込んでいた。その思いがきっかけで広告会社に入ってみたら、実際は何もできなかった。まったく、自分に火がつかないんですね。でも、寄り道をしたことでわかりました。僕はトレーニングやスポーツの世界にずっと携わっていきたい。30代でそれを知ることができて、本当によかった。

綾戸 :
途中下車やね。また帰って来たということ。私も今回のドキュメンタリーがあったから、いろいろなことに踏み切れた。ジャンプできた。新しいアルバムも、番組の制作期間中に作ったんです。当時は多忙で、シンガーとしての活動は少し控えようと思っていた。でもドキュメンタリーの撮影が始まったら、曲が出てくる出てくる(笑)。止めても止めても湧き出てくるから、スタジオに入って3日で一気に作ったよ。できる時は一気にできるからね。今回は自由に、すべて自分で考えて作ったけれど、本当にいい作品ができた。今、自分の線路をしっかり走れている実感がある。マッチョとこんな仕事もできたしね(笑)。

竹下 :
すごく充実していらっしゃるのが、表情からもわかります。体調もよさそうだし、すごくお元気に見える。僕もすごくうれしくなります。

綾戸 :
この体は確かに、親、そしてご先祖からもろたもの。でも、メンテナンスは自分でせなあかん。ご先祖でも、メンテナンスまでは面倒見切れへん。ロコモサイズの本を読んで、自分でしっかりやりや! ということやね(笑)。

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Location: コートヤードHIROOAugust 2014
Photo: Takeshi IjimaEditor: Naruhiko Maeda