被災地支援で
スポーツの力を実感
一般財団法人UNITED SPORTS
FOUNDATION代表理事
諸橋寛子
デポルターレクラブには、トップアスリート、経営者、文化人、芸能人など幅広い業界の一流の方が多く通っていただいています。そうした一流の会員様がトップランナーとして走り続けるためには、ライフスタイルや日常の習慣にその理由が隠されています。そこで、デポルターレクラブでは、代表・竹下雄真と会員様との対談企画をスタート。日ごろ実践している健康法やウェルネスに対する考え方、そして、忙しい日々の中、どのようにスケジュールを管理しているかを聞き、一流の会員様が一流である所以に迫ります。連載第3回目は、一般財団法人UNITED SPORTS FOUNDATION代表理事の諸橋寛子さんをゲストにお招きしました。
竹下 寛子さんとこうしてお話するのは、12年前、ゼビオアリーナ仙台でのインタビュー以来ですね。
諸橋 12年ですか、早いですね。
竹下 あのときは、一般財団法人ユナイテッド・スポーツ・ファウンデーションの設立経緯や活動内容について伺いました。
諸橋 そうでした。当時、私は福島にいて、東日本大震災を現地で経験しました。放射性物質の影響で外遊びが制限される中、何とか子どもたちに体を動かす場を提供できないかと思い、ゼビオがゴルフショップにする予定だった建物を、無料の運動施設として開放したんです。それが財団のきっかけで、施設は約3年で延べ11万人以上の子どもたちが利用してくれました。
竹下 11万人はすごいですね。被災地の子どもたちにとって、本当に意味のある場だったと思います。
諸橋 当時は何が正しいのかわからないなかで、ただ家に閉じこもっていることの悪影響をすごく感じました。震災後、福島の子どもたちの肥満率が全国1位になったという結果にもつながっていて……。身体的にも、メンタル的にも深刻な状況でした。
竹下 それで、スポーツイベントを開催されたり、小学生を対象にしたスポーツキャンプを実施されたりといった活動をされたんですよね。
諸橋 スポーツを通して人と関わることで、コミュニケーションの取り方を子どもたちに教えたかったんです。そして、そうした活動の中で見えてきたのが、「運動が好きな子」と「そうでない子」の格差、地域による環境の違いです。スポーツって、プレーするだけじゃなくて、見る、応援する、という関わり方もあるはず。音楽やアートと同じで、人生を豊かにする力があると思っています。実際、私自身、それまでスポーツをやったことがなくて、苦手だからやらないのもおかしいという自覚がありました。
竹下 当時は腹筋もできなかったんですもんね。
諸橋 本当にそうです(笑)。デポルターレクラブとの出会いが、私を変えてくれたと思っています。だから、人間というのは、きっかけなんですよ。「できない」って思い込んでいるだけなんだと。きっかけさえあれば、人って変われるんです。財団設立と私自身、運動を始めたことで、スポーツの持つ力というものに気づかされました。そして、活動を全国に広げていく中で、今度はコロナが発生して、また外出が制限されました。これはもう、震災と同じ状況だなと感じて。だから、すぐにオンラインでの活動に着手しました。特に地方の子どもたちは、デジタル環境の格差が課題で、リアルとオンラインの両立が鍵になったんです。
竹下 オンラインでも1000人、2000人規模でつながる取り組みもされていると伺いました。
諸橋 最近は学童に通う子どもも増えているので。学童同士をつなげて、一緒に運動や学びを深める。これも、コーチングの力があってこそです。私が今でもパーソナルトレーニングを受けているのも、常に新しい視点を得られるから。子どもたちにも、そうした学びの場を届けたいと思っています。
竹下 最近はアート活動にも注力されていると聞きました。寛子さんご自身、幼少時代から音楽を学び、ご実家は美術館もやられているので、もともと芸術に造詣が深いのは言うまでもないのですが。
諸橋 そうですね。生前、父はよく話していたのが、「海外の美術館は子どもが寝転がったりスケッチしたり自由。でも日本は敷居が高すぎる」と。その言葉が強く印象に残っています。今は子どもたちから要望があればスケッチも可能ですし、その他にフリートーキングデーや対話型鑑賞体験を提供しています。子どもって、大人が思いつかない視点で描くんですよ。それがすごく面白いし、アートの持つ力だと思っています。
竹下 スポーツと同じですね。幼い頃から本物に触れることの大切さ。
諸橋 本当にそう。プロの技術や視点に触れることは大事で、それは一生学び続けることにもつながる。スポーツとアートのバランス感覚って、実はすごく大事だと思っています。
竹下 最近は、アート思考をビジネスに活かす動きも増えていますね。
諸橋 私も今年、ビジネスアートマインドセット講座を再受講する予定です。参加者の視点が本当に多様で、学びが毎回違うんです。アートには答えがない。だからこそ、今の時代に合っていると思うんですよね。正解を探すより、時代やマーケットを見据えて何をアウトプットするか、どういう社会にしたいのかといったことを考えることに興味が湧きますし、今後も学んでいきたいと思っています。
竹下 僕も受講してすごく刺激を受けました。アート的な感覚をビジネスに取り入れる視点って、本当に新鮮でした。
諸橋 竹下さんは、もともとアート的な発想を自然に持っていたんじゃないかと思います。デポルターレクラブの挑戦も、まさにそうですよね。新しい視点、発想の柔軟さ。私が通い続けている理由はそこにある気がします。昔は「猫も杓子もMBA」でしたけど、今はアート的なアプローチが重要になってきているのかもしれませんね。日本は「1を100にする」ことは得意だけど、「ゼロから1を生む」力は弱いと言われてきました。でも、これからの教育や社会には、ゼロイチを育てる環境が不可欠だと感じています。財団としても、子どもたちの創造力をどう育てるか、常に考えています。
竹下 スポーツもアートも、社会を変える可能性を持っているという意味では、共通点が多いですね。
諸橋 諸橋近代美術館は昨年で開館25年目を迎えました。それを機に「ととのう展」という展覧会を開催しています。最近ブームになっているサウナの“ととのう”と、美術館で心身を整えることを掛け合わせた、新しいヘルスケアの提案です。美術館の庭に特設したサウナに60人ほど来場された日もありましたが、美術館でも文化を通して心がととのう体験ができると思っています。
竹下 実際に訪れて感じたのは、やはり絵にはエネルギーがありますね。スマホの画面では得られない“生”の感覚。しかも自然に囲まれた場所で歩きながら鑑賞するという体験自体が、まさにウェルネスだなと感じました。週末に少し足を伸ばすだけで、心が満たされるんじゃないかと思いましたね。
諸橋 音楽のライブやスポーツ観戦と同じで、美術館も“ライブ”なんですよね。季節によって光が変わると、絵の見え方も変わります。その瞬間にしかない体験があるので、ぜひ美術に馴染みのない人にも足を運んでほしいです。
竹下 僕もここに何度か来てますけど、毎回違った印象を受けるんですよね。天気や自分の体調、展示テーマの違いなどでまったく異なる感覚になります。アートがヘルスケアやウェルネスに深く関わっていることを再認識しました。
諸橋 最近では企業もメンタルヘルスに力を入れてますよね。体を動かすだけじゃなく、心や脳を癒すアプローチも大事。その点で、アートはすごく可能性があると思います。
竹下 メンタルとフィジカルは密接につながっていて、両方をバランスよく整えることが、今後、日本のさらなる進化の礎になると思います。寛子さんご自身は、健康やウェルネスで大事にしていることはありますか?
諸橋 最近はとにかく「よく寝る」ことを意識しています。以前は夜中まで活動していたんですが、今は10時には寝て、6時前に起きる生活に。運動も週4日行い、20〜30キロ走っています。筋トレは専門家に教わるのが一番効率的って実感しました。
竹下 僕より鍛えてますね(笑)。
諸橋 あと、ストレッチは10年欠かしてないですね。昔は常に手足が冷たかったのに、今は冬でもポカポカ。体温も上がったし、免疫力も高まってる気がします。40歳まで運動ゼロだった私でも、変われたのが自信になりました。
竹下 エネルギーの質が違いますもんね。
諸橋 105歳まで生きるつもりですから(笑)。そのためにも十分な睡眠と週4の運動は必須です。
Hiroko Morohashi’s
Basic Time Schedule
(Week Days)
竹下 常にアートに触れる環境があるというのも、ウェルネスにつながっているのでは?
諸橋 そうですね。諸橋近代美術館も、サルバドール・ダリの作品など、何年ぶりかに再会できる絵もあります。それを観賞することで昔の自分に戻ったような気がしました。それと、歌舞伎は月1で観に行っています。人が演じる姿を見ることで脳が刺激され、心が震えるような体験ができる。そして、心地よい音楽を聴きながら、うたた寝する時間も幸せなんです(笑)。気張らずに楽しめる文化体験も、心の回復にはとても大事だと思います。
竹下 そういった「リカバリー」としての文化体験って、これからのヘルスケアやウェルネスに必要なのかもしれませんね。先ほど6時には起床するとおっしゃいましたが、起きてすぐに食事をされるんですか?
諸橋 いえ、食事の前に運動をします。朝食もヨーグルトやフルーツなど本当に簡単なもので、そのぶんブランチで食べます。夕食は会食も多いですが、遅くてもスタートは6時半。8時ごろには食事を済ませ、帰宅したら入浴して10時から11時には就寝します。ベッドに入って3秒で気を失ったように寝ます(笑)。
竹下 睡眠を取らないと脳に疲労が溜まって、それが蓄積されていくと重篤な問題を引き起こす原因にもなります。寝るというのは非常に大事だと思います。
諸橋 私、12年前より絶対、今のほうが元気だと思う(笑)。傷の治りも早くなっているくらいだから。
竹下 素晴らしい(笑)。今日は福島に伺って本当にいい時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます。
諸橋 寛子(もろはし・ひろこ)
福島県いわき市生まれ。大学卒業後総合商社勤務を経て、創業者である父が経営する現在のゼビオホールディングスに17年携わる。
2011年3月東日本大震災後、復興支援活動を契機に「スポーツの持つ力」を再認識し、同年9月、一般財団法人UNITED SPORTS FOUNDATIONを設立し代表理事に就任。 「スポーツの力で子どもを笑顔に」をテーマにマルチスポーツイベントを推進し、約60万人の子どもたちにスポーツに触れる機会を提供。
2020年から約5年間、文部科学省や経済産業省による部活動の地域展開に係る委員会に参画。教育的・経営的視点から提言を行い、スポーツを通じて持続可能で健全な社会を醸成すべく、活動に精力的に取り組む。
USFウェブサイト:https://unitedsportsfoundation.org/
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