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Interview vol.4
豊ノ島大樹×竹下雄真

小学生時代に
恩師からいただいた言葉、
『三年先の稽古』

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豊ノ島大樹(とよのしま・だいき):1983年高知県出身、時津風部屋所属の力士。身長169cm、体重146kgと小柄ながら、強靭な下半身と多彩な技を持ち味に、多くの相撲ファンを魅了。2002年初土俵、2004年に新十両、新入幕を果たす。最高位は関脇。更なる活躍を目指し、フィジカルトレーニングを2012年2月より取り入れている。

――― トレーニングを始められていかがですか?

竹下雄真(以下:竹下)
「もともと運動能力が高いこともありますが、トレーニングをする度にスピードが上がっています。今では、現役生活の中で一番スピードが速かったときと変わらないところまできたのではないでしょうか。今、溜まっている乳酸が抜けたら、さらにスピードが上がると思います」

豊ノ島大樹関(以下:豊ノ島)
「今までは、トレーニングをし過ぎると、筋肉が固くなってしまうのではないかと思っていたのですが、デポルターレクラブで理論を学び、そうではないことを知りました。今では、限界まで挑戦しています」

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――― トレーニングは、どのようにスタートされたのですか?

竹下:
「先場所のビデオを見ながら、気になるところを話し合うところからスタートしました。身体が重く感じると言われたので、14勝1敗の頃にとりあえず戻そうと10キロ落とすところから始めました。奥さんともお話し、スムーズにベストの体重に持っていくための食事のポイントなどのアドバイスもさせていただきました」

――― トレーニングをする上で、相撲と、他のスポーツとの違いはあるのですか?

竹下:
「トレーニングは、スポーツの「競技時間」と「競技強度」で変わります。相撲の場合、競技時間が短く、競技強度が高いので、そのバランスを考えたメニュー構成になりますが、基本的な考え方は変わりません」

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豊ノ島:
「限界まで、ていねいに、やさしくいじめてくれます(笑)。特に、綱を使ったトレーニングは、夢にまで出たくらいです」


竹下:
「綱のトレーニングは、上半身と下半身の連動を鍛えるためのものです。相撲は、下半身と上半身の連動と貯めが大事なスポーツですから。もちろん握力も鍛えられますから、まわしをつかむときも効果があります」


豊ノ島:
「あれは、想像以上にきついですね」


竹下:
「綱を回すといったシンプルな動きなのですが、かなりインパクトがあると思います。最近特に、トレーニングはアナログに戻りつつありますね。そもそも人間の体が変わらないのですから、当然かもしれません。科学的なトレーニングを取り込むよりも、その人が、どれだけ頑張ろうと思うかという、気持ちの問題の方が大きいと思います。
豊ノ島関の場合は、立ち上がりの出足と、身体が立ちぎみなのが課題でしたから、今は、それに向けた良いトレーニングができていると思います」

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――― 伝統的な相撲には、昔から受け継がれた稽古がありますが、その稽古とトレーニングのバランスについてはどうなのでしょうか?

竹下:
「相撲に限らず、アスリートの方には、今やっている稽古はそのまま続けていただき、それにプラスする形で、オーバーワークにならないように気を付けながら、その競技特有のトレーニングを組み立てています。そうすることで、今までよりも、回復力やキャパが各段に増加します」


豊ノ島:
「トレーニングについては、ぱっとやって、ぱっと結果が表れるものではなく、三年先に結果が残ればいいと思っています。小学生時代、相撲の指導者から『三年先の稽古』という言葉をもらったのですが、小学生の当時は理解できませんでした。相撲を続ける中で、『三年先の稽古』という言葉の持つ意味を徐々に理解し、重みを感じてきました。明日の一勝よりも、三年先に自分がどこにいるかを見据え、稽古への取り組み方を考えます。今、勝ったとしても、三年後、下に落ちていたら意味がない」

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竹下:
「『三年先の稽古』は、何にでも通じる、とてもいい言葉ですね。三年先のためにも、スピードとパワーのバランスが大事です。今の状態は、スピードがものすごく速くなって、パワーも増していて、取り組み相手が嫌がる力士になっていると思います」

――― これからの場所が、楽しみですね。

竹下:
「僕たちも、当然、結果を出してもらいたいと思いますが、ここまで高いレベルで戦っている力士やアスリートの場合、トレーニングの結果がすぐに出るとは限りません。特に、相撲はとても繊細なスポーツです。 まずは、ご自身で、自分の進化や変化を感じて欲しい。それを積み重ねて強くなり、三年先にいい状態に持っていけるようにしたい」


豊ノ島:
「『三年先の稽古』と思いながらも、勝負の世界ですから、15日間の場所中、当然結果を求めます。今回、これだけ頑張ったのに、どうして結果が出ないんだと落ち込むこともあります」

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竹下:
「それは、アスリートとしては当然のことです。例えば、トレーニングによって、スピードが3から8へ、パワーも3から9になったとします。しかし、これをそのまま相撲に乗せられるかというと、ここまで高いレベルの選手になると別問題なのです。
取り組みの順番など、横綱、大関と続いた後は、精神状態や身体のバランスも、当然、繊細に変わります」


豊ノ島:
「メンタル部分でいうと、取り組み前日に、取り組みの初めから、自分が勝ったところまで、実況付きでイメージトレーニングをしています」

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竹下:
「それは、とても大切なことですね。アスリートをはじめ、優秀な経営者の方に、将来のイメージを、映像としてとらえる方が多いと聞きます。映像のイメージがある方とない方では、パフォーマンスにも差が出てきます。僕が大学院で研究していたのもこの分野でした。各々の要素のバランスを保ちながら、高いパフォーマンスを上げることが重要になります。
例えば、筋肉量とスピードでは、横軸(X)をパワーに、縦軸(Y)をスピードとした場合、パワー&スピードがここまで大きくなります。そこに、相撲というベクトルを乗せることで、全体的な伸び率を上げる。ここが、僕たちトレーナーの役目です。メンタル、フィジカルなど、いろいろな要素がここに入りながら、優勝というゴールに向かって、ベクトルを伸ばしてくのですが、今は、2段階くらい上がった感じです」

――― 最後に、お互いにメッセージを・・・。

竹下:
「やはり、一番になってもらいたいし、これからも、ずっと相撲を続けてもらいたい。豊ノ島関が、相撲界で力を発揮し、活躍することが、多くの方にパワーを与えるし、結果を残していくことで、強い精神力も伝わると思う。体格的な問題など、さまざまな要素がありつつも、『三年先の稽古』に取り組み努力していけば、こうなれるんだというメッセージを世の中に伝えられる選手だと思うし、僕はそういう選手が好きです。必ずなれると信じています」


豊ノ島:
「小学校のわんぱく相撲から優勝を重ね、国体や全国大会でも相撲に全力で取り組んできました。この世界に入り、付き人時代から死にもの狂いでやってきて、良きライバルにも恵まれ、まさに切磋琢磨しながら、今があります。
相撲を引退してから、しばらくして、このトレーニングをやってよかったと必ず言えますし、やってなかったら絶対に後悔すると思います。とにかく今は、勝負で結果を残していきたいと思います」

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Location: 時津風部屋September 2012
Photo: Takeshi IjimaEditor: Takako Noma