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Interview vol.12
清宮克幸×竹下雄真

こうすれば
絶対に勝てると言い切り
自分達だけの
チャレンジを強調することで
選手達に自信を植え付けていく

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清宮克幸(きよみや・かつゆき)1967年7月17日大阪府出身。茨田高ではナンバー8として全国大会に出場し、高校日本代表主将を務める。早稲田大に進学後は、2年時に日本選手権優勝、4年時は主将として大学選手権優勝。卒業後サントリーに入社。日本代表でも活躍し、U23日本代表としてアメリカ代表に勝利。1995年度には全国社会人大会優勝、日本選手権優勝を達成。2001年に現役を引退すると早大ラグビー蹴球部監督に就任。2003年、2005年、2006年に全国大学選手権優勝を果たし、サントリーサンゴリアスの監督に就任。2007年にマイクロソフトカップ優勝。2011年より、ヤマハ発動機ジュビロの監督を務める。

竹下雄真(以下:竹下):
実は今回お話をさせていただくにあたって、清宮監督と自分にとっての共通のテーマは何だろうと考えていたんです。監督は今まで、ご自身の現役時代を経て早稲田、サントリー、ヤマハと強いチームを率いていらっしゃいました。その中で「勝つ集団」を作るために、どうやって選手の能力を引き出しているのか。そこが一番興味深く、僕自身にとっても非常に勉強になる部分かと。そこで今回は「いかに人を育てるか」というテーマでお話を進めていければ、と思っています。

清宮克幸監督(以下:清宮):
わかりました。そうですね。例えば、僕は選手によく「絶対こうなる」と言い切りますね。「こうすれば絶対にこうなるから、こうしよう!」と。優勝を狙うチームと上位を目指すチーム、学生と社会人など、それぞれのチームのレベルで「これがベストだ」というものを提示し、それを選手達と共有してきたつもりです。チームのレベルによって「本当はこれが絶対正解で、こうすべき」というものがあっても、それを気づかせないようにしています。実は本当はもっとレベルが一つ高いところでいくとまだ足りないことがあるんだけど、それはあえて見せず「(自分達の目標と現在のレベルの中での)ベストはこれだ」と僕は言い切るんです。そして選手達は、それをやればべストが出せる、勝てる、と信じる。チーム作りとは、その繰り返しだと思います。

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竹下:
選手を信頼させていくには、監督ご自身の言葉の説得力が必要ですね。そういう面ではどんなことを心がけているのですか。

清宮:
もう、プレゼンテーションですよね。選手達に「こうしたらこうなるだろう? だから、こうするんだ!」と、自信満々でわかりやすく語る。それで結果が出たら「ほら、そうなっただろ」とそれを検証し、でも「ここはもうちょっと、こう変えた方が上手くいくから、やってみろ」と言って修正を加え、また結果を出す。もちろん結果がダメなこともあります。そういう時もなぜ上手くいかなかったのか検証しながら「じゃあこうしよう」ということで次のやり方を積み上げていく。正直、そのやり方が間違っていることもあるでしょう。でも正しいか間違っているかを考えるより、それを皆でやり切る方がチームとしては強くなると思います。

竹下:
ちょっと変な質問ですが「こうしよう」と一度おっしゃってから、「もしかしてこれは違っているんじゃないか?」という迷いが生じる時はありませんか。そういう時は、どのように修正を加えていかれるのでしょう。

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清宮:
はっきりと言いますね。「こう思ったけど、違った。こうだったから、やっぱりこうしよう」と。まあその数があまりに多いと信頼関係がもつれていきますが、現状ではそれほど多くありません。

竹下:
ベースとなる信頼関係が大切ですね。

清宮:
そうですね。それと僕は「これは俺達しかやっていない。俺達だけがやっている未知のチャレンジなんだ」と選手によく言います。「俺達だけがやっていることだ」というのは、彼らにとってプラスの言葉。「自分達しかやってないことだから、失敗してもダメージはない。自分達だけのやり方に思い切ってチャレンジしていこう」と示すわけですね。今のヤマハのラグビーでいうと、ヤマハだけのスクラム、ヤマハだけのボールの動かし方といった自分達のやり方を作っていく。そんなイメージですね。

竹下:
選手もチーム内での立場がいろいろあると思うのですが、かける言葉は個人個人で変えていらっしゃるのですか。

清宮:
変えていますね。体を張らなきゃいけないポジションの選手とひらめきが必要なポジションの選手だと、求めるものが違うからです。選手への要求は基本的に厳しいですが、その中でもFW5人には特に厳しい口調でいろいろなことを求めます。FWの奴らは叩いてナンボ。ラグビーはそもそもそういうスポーツなんです。体を張るFWの奴らが頑張らなかったら、ゲームが崩れてしまいますから。でも、ポジションが後ろに行くほど、そういう口調では語りません。そこは使い分けます。

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竹下:
選手が持ってる才能を引き出すために、監督が重視されてることは何でしょうか。

清宮:
アイデアは出しますが、長所はあくまで自分で磨くもの。教えればできるレベルでは、長所とはいえない。そこはバランスを考えますね。短所ばかりを注意してもよくないし、長所ばかりを伸ばすのもダメ。好きなことしかやらない選手は、試合に出れません。

竹下:
チームの中でレギュラーを選定するにあたって、もちろん体が強くてラグビーが上手というのはあると思いますが、精神面で基準はあるのですか。

清宮:
それはないです。メンタルが強いのはプレーが強いということ。それは単なる内面の強さという意味ではなく、スコアにできる強さ。ラグビーという競技は、メンタルの強さを実際の試合のスコアに変えられるスポーツなんです。

竹下:
選手の伸びしろについては、どう判断されていますか。この選手はまだ伸びる、もう伸びない、というのは、感覚的にわかるものですか。

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清宮:
伸びしろにはある程度底があると思いますね。早い時期にいい指導者と出会った場合、ある程度は伸ばされた状態にあることが多い。だから次に僕が来て教えたからといって、周りの選手と同じようには伸びない。そんなケースは多いです。精神面も含めて考えると、ある程度、伸びしろは見えますね。逆にフィジカルトレーニングにおいて、伸びしろはどのように見るのですか。

竹下:
僕らは選手本人やコーチの方から「こういう所が弱い」「こういう所は強いけれど、ここは弱い」という話をした中で総合的に判断しながら見ていくので、ここが伸びしろだ! という見方は正直あまりしません。ただ、息子さんである幸太郎君の映像を見た時は、驚きました。果てしない伸びしろがあると思いましたね。ゴムまりのように体が柔らかく、すごい打球を飛ばす。もちろん才能はあると思うんですが、これは間違いなく仕込まれているなと(笑)。いや、アスリートとしてすごい親は、今までいっぱいいらしたと思うんです。でも清宮監督はもともとラグビーという究極なスポーツのトップ選手で、そこからトップの指導者になられた方。そんな方の息子さんですから、もうそれだけでワクワクさせてくれるというか…。もちろんベンチプレスが何kg上がって、クリーン、スナッチがいくつ、100mを何秒で走る、といったことも大切ですが、そういうことではない。ものすごくワクワクさせてくれる選手ですね。

清宮:
そうですか。

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竹下:
選手の能力を引き出す、というポイントでここまでお話をお聞きして、先ほどおっしゃっていた選手へのアプローチ方法と、僕らがクライアントの目標達成のためのすることは、まったく逆だと思いました。僕らは選手本人やコーチから「ここの部分を改善すれば、これができるようになる」と言われたことをよく分析し、僕らなりの意見を加えながら、試合でのパフォーマンスがいい方向に向かうように手助けしていく。それが僕らの仕事です。例えばウチに今、大学野球の選手が来ています。彼は高校時代と比べてパフォーマンスが今一つで、どうすれば元に戻せるか、という話をしています。その中で本人が「高校時代に一番よかった時は、82kgだった。今は88kgぐらいあるから…」と言う。じゃあ、脂肪だけを落としてもう一度82kgの体を作ろう、ということでトレーニングを見ています。

清宮:
竹下さんのご意見も正しいと思いますが、昔82kgで今88kgなら、僕ならば「じゃあ、あと5kg増やそうよ。93kgの体を作ってどうなるかを見てみよう」と言いますね。そっちの方が魅力があると思うんですよ。実は今、息子に「高校3年生になったら、110kgで試合に出ろ!」と言っているんです。今183mで97〜98kgあるんで、これからしっかり筋トレをさせて1年間に3kgずつ増やせば、いけると思うんです。しかも50mを6秒5ぐらいで走れるという。

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竹下:
前代未聞のスーパーアスリートですね(笑)。

清宮:
僕は野球は素人ですが、やっぱり体重×スピード。当たりそこねでも、金属バットを使えば100mぐらい簡単に飛ばせるだろうと、勝手に思っているんです(笑)。アメリカで結果が出なかった選手達が日本に来て、あれだけ打っているわけです。ということは、基礎体力の違いが一目瞭然。だから、わざわざ痩せる必要はないと思うんです。まあ、それだと守れないかもしれませんが(笑)。

竹下:
いや、トレーニングを積めば、間違いなくすごい選手になりますよ。

清宮:
野球選手の場合、大事なのはたぶん背筋とお尻。体幹だ思います。それと前腕。バレンティン(東京ヤクルト)の打ち方を見たら、瞬発力がいかに大事かがわかる。

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竹下:
パワーとスピードがあり、柔軟性もあってケガもしにくい体を作れれば、大きい方が絶対にいいです。ちょっと芯を外しても、スタンドまで持っていけるのは魅力。今の日本のプロ野球を見ても、そういったパワーヒッターが上位に入っていますから。ところで、息子さんがラグビーではなく、野球を選んだきっかけは何だったのですか。

清宮:
好きなものをやればいいと思っていたのと、その世界でトップになれる可能性が高いスポーツの方がいいだろうと考えていたからです。仮に自分と同じ体質であれば、持久力に難点があるはず。僕は速筋系で短い距離は早いけれど、長い距離はダメでした。今のラグビーはどんどん持久力が必要になってきていて、それがない選手は上に行けない。可能性としてどっちのスポーツが向いているかと考えたら明らかに野球だ、というのが僕の判断としてありました。

竹下:
ラグビーと両方やる、という考えはなかったのですか。

清宮:
息子も僕ももともとそう思っていました。「甲子園に出て花園にも出よう」と言っていたのですが、野球が想像もしていなかった成長具合で(笑)。正直、ここまで行くとは思っていなかったので。そこは仕方ないですね。ただ高校に上がって、圧倒的な結果が出せなかったら、8月からラグビーをやらせます(笑)。ずば抜けた存在じゃなければ、両立させたいですね。

竹下:
小さい時から「これはやっとけ」という形で何か指導はされたんですか。すごい選手ってたいてい、子供のころに両親からそういった指導が何かしらあるんです。

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清宮:
僕はほとんど家にいませんから、妻が習いごとに突っ込ませた感じです。小学1〜2年から水泳、陸上、テニス、週末はラグビー。それと野球。すべて一流の方々に教わりました。ラグビーはワセダクラブで僕が教えましたが相当上手ですよ。下手をするとヤマハの選手よりも息子の方がパスが上手かったり(笑)。キックも50mぐらい飛ばします。

竹下:
すごいですね!

清宮:
小さいころによく、ラグビーボールを蹴っていましたね。時間が止まっているのかというぐらいずっと。僕がグラウンドに連れていき、2試合200分終わって見てみると、試合開始前と同じところで同じようにボールを蹴っていました。飽きないんです。その後、野球を始めたらもう面白くて仕方ないらしく、朝から夜の7時まで野球をして、家に帰ってもまだやりたい、と言う。そういう面があります。

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竹下:
優れた選手は、そうやって一つのことをずっと続けることができるんです。
体作りという点で僕が一つ気になるのが、筋力を付けることに、日本人はものすごく抵抗感があるということです。競技のコーチの方と、そこの折り合いをつけていく必要があるんですよね。僕はやっぱり大きくて速いのが一番すごいと思うんです。確かに欧米と比べたら大きい人の絶対数は少ないし、日本人はパワーで劣るのかもしれない。でも僕は日本人だから無理だとはぜんぜん思っていません。今、パワーリフティングとアームレスリングのヘビー級チャンピオンは日本人ですから。確かに身長の違いなどはありますが、パワーはやればいくらでも付くと思うんです。

清宮:
それは、ラグビーも同じですよ。日本にいる数少ないトップアスリートがラグビーを選択すれば、例えニュージーランドなどの強豪でも十分戦える。一つのことができる子供はたいてい、他のこともできます。ラグビーの世界でも、例えばアイルランドでは、バスケットボールやバレーボールが盛んでないので、背が高くて運動神経のある選手がラグビーをやっている。だから、常にいいロックが育つんです。住み分けが上手くできているんですよね。それとニュージーランドがなぜラグビーが強いかといったら、他のスポーツがほとんど入っていないからです。正直、日本には、ラグビーになかなかアスリートが集まってこない現状がある。ほかのスポーツの選択肢がなかったとしたら、ラグビーはもっと強いはずです。

竹下:
日本もアメリカのように、高校時代などにもっといろいろなスポーツを経験させられたらいいんですが…。いろいろと事情があるので難しいとは思いますが、幸太郎君がその先駆けとなってくれたら面白いですね。そしてまずは先ほどおっしゃられたように、110kgあってパワーと柔軟性を兼ね備えた高校球児が出てきたらと考えると、今からワクワクします。将来が本当に楽しみですね。今日はどうもありがとうございました!

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Location: ヤマハ大久保グラウンドSeptember 2013
Photo: Takeshi IjimaEditor: Naruhiko Maeda