百年先を見据え
るロマンの挑戦
SASAKAWA WHISKY 株式会社
代表取締役
笹川正平
デポルターレクラブには、トップアスリート、経営者、文化人、芸能人など幅広い業界の一流の方が多く通っていただいています。そうした一流の会員様がトップランナーとして走り続けるためには、ライフスタイルや日常の習慣にその理由が隠されています。そこで、デポルターレクラブでは、代表・竹下雄真と会員様との対談企画をスタート。日ごろ実践している健康法やウェルネスに対する考え方、そして、忙しい日々の中、どのようにスケジュールを管理しているかを聞き、一流の会員様が一流である所以に迫ります。連載第5回目は、SASAKAWA WHISKY 株式会社代表取締役の笹川正平さんをゲストにお招きしました。
竹下 本日はよろしくお願いいたします。まず、笹川さんが現在取り組まれている事業について教えてください。
笹川 8年前までテレビ局で番組制作のプロデューサーをしていましたが、退職後、社会に残る事業を始めたいと思ったんです。それで、祖父がかつて大阪・箕面市で日本酒の造り酒屋を営んでいたこともありまして、「お酒をつくろう」と考えました。昔からウイスキーが大好きだったので、ウイスキーがいいだろうと決めて。ただ、ウイスキーがどのように作られるか全く知識がなかったため、日本各地の蒸溜所を訪問し、スコットランドにも足を運んで学びました。その中で「日本でも美味しいウイスキーを作れる」と確信し、自分の蒸溜所を作る決意をしました。
竹下 それにしても、素晴らしい建物ですね。
笹川 世界中に蒸溜所は数多くありますが、多くは工場のような簡素な造りです。私はここを訪れる方に感動体験を提供したくて、建築士の兄に依頼して、内部設備が見える設計やラウンジなど、魅力的な施設を実現しました。場所を決めるときに重要視したのは、「水の良さ」です。父が40年前に富士山麓の富士桜高原に別荘を建てた縁もあり、幼少期から富士の天然水を飲んで育ちました。その水の美味しさに着目し、2023年11月に富士吉田市に蒸溜所を完成させました。
竹下 やはり、ウイスキーづくりで大切なのは、水ですか?
笹川 そうですね。イギリスでは「マザーウォーター」と呼ばれ、水は味の根幹を成す重要な要素です。弊社は世界一の水を使っていると自負しています。
竹下 水以外で重要な要素は何ですか?
笹川 蒸溜方法が重要です。多くの蒸溜所が効率化のためステンレス桶を使う中、弊社は伝統的な木桶を採用。木桶内の多様な微生物が複雑な発酵を促し、重厚な味わいを生み出します。また、蒸溜は直火焚きで行っており、一般的なスチーム焚きよりも強い火力で一気にするため、豊かなフレーバーが生まれます。これは日本では珍しい手法です。
竹下 ウイスキーは製造にどれくらい時間がかかるのですか?
笹川 製造自体は5日程度ですが、その後の熟成が重要で、最低3〜5年、長ければ数十年、時には100年単位で木樽の中で寝かせます。熟成環境としては、標高約1,000メートル、年間平均気温13~14度の富士北麓は理想的です。
竹下 最高の素材と環境を整えたとしても、結果がどうなるかは未知数ということですね。
笹川 そうです。完成品の味は数十年後にならないとわかりません。でも、そこがウイスキーの醍醐味であり、ロマンですね。例えば、サントリーも100年かけて評価を得てきました。私のウイスキーも将来的に子どもや孫の世代で評価されるかもしれません。
竹下 仕込んだ後は樽で寝かせるだけと聞きますが、その間はどんな作業をされているのですか?
笹川 今は昼夜二交代で、1回の蒸溜で200リットル樽を3樽作り、1日6樽ほど作っています。これを熟成させる貯蔵庫に置くのですが、ただ置くだけではなく、1,000〜2,000樽を常にチェックしています。熟成の進み具合を見て、味が変わるので管理が重要です。同じ原料・同じ樽でも、置く場所の高さや温度差で味が違うんです。例えば、熟成が早い樽を下の段に移すなど、日々調整しています。気が抜けませんね。
竹下 僕の住まいがある茅ヶ崎には、サントリーの広告を手がけていた開高健さんの記念館があります。子供の頃から「ウイスキーを広めた人なんだ」と意識していました。
笹川 開高健さんはウイスキー愛好家で、開高さんと長年ウイスキーを飲み続けてきた元集英社の島地勝彦さんは、僕の師匠なんですよ。お二人が愛した「グレンファークラス」というウイスキーは、いわゆる、昔ながらの直火焚き蒸溜や木桶発酵といった伝統的な製法を守り続けている蒸溜所が作ったブランドで、僕も同じようなウイスキーを作りたいと心から思っています。昔は発酵環境も衛生的ではなく、壁や木桶にカビが生えることもありましたが、そのカビが複雑な発酵を促し、味に深みを与えていたことが最近の研究でわかったんですよ。
竹下 とても深い話ですね。以前、栃木県宇都宮市で400年続く味噌屋『青源』を訪ねたことがあって、そこの味噌蔵には、蔵に棲みついた菌が生き続けていて、その菌が味噌の個性を作り出していると聞きました。数値には表せないその菌の存在感は、ウイスキーにも似た部分があるのかなと思いました。
笹川 まったく同じですね。どの菌がどう影響しているのかはまだ解明されていませんが、同じ場所でずっとウイスキーを造り続けることで、その菌が自然と増えていくというのは非常に面白い現象です。
竹下 SASAKAWA WHISKYが目指す方向性は?
笹川 自分ができる最大限の投資をして、環境や材料、設備、人員も整えました。今後、この富士の自然の中で長期熟成させ、数年後には自信を持ってお届けできる商品が完成すると思います。多くの人に広く売るより、ウイスキーを愛する方々に価値あるものとして楽しんでほしい。高級ホテルやバーなどで飲んでもらいたいですね。
竹下 それにふさわしいですね。いい素材や環境に加えて、魂やエネルギーのようなものはありますか?
笹川 僕は40年近く富士北麓、河口湖に通っています。富士山という世界的観光資源があるのに、軽井沢やニセコのような高級別荘地にはなっていません。観光客も日帰りが多く、滞在型の楽しみ方が少ない。それは文化が育っていないことが原因ではないかと思っていて、食やアート、お酒、音楽など、成熟した文化をこの地域に根付かせたいと考えています。そうすれば、世界中から観光客が訪れる地域になるでしょう。ウイスキーもその文化の礎になれるはずです。蒸溜所を訪れたいというウイスキー愛好家も増えています。そうした人たちが泊まり、自然や美味しい食事を楽しみ、富士北麓地域の発展に貢献できればと思っています。
竹下 酒造りだけでなく、観光や地域活性化にも取り組まれているのが素晴らしいですね。
笹川 富士山は日本一のパワースポットと言われていて、風水学的にも、富士山の気を取り入れて街や城を作っていたという史実も残っています。間近で富士山のパワーを受けられるのは幸運だと思います。
竹下 それが笹川さんのエネルギーの源なんですね。
笹川 まさにその通りです。
竹下 笹川さん、普段気をつけていることとか、健康法、ウェルネスに対する考え方について教えてもらってもいいですか?
笹川 僕は学生時代ずっとラグビーをやっていて、小学校から大学までトレーニングは日常の一部でした。ただ当時は筋トレの重要性がまだそこまで認識されていなくて、好きじゃなかったこともあって、筋トレはあまり熱心にやってなかったんですよ。でも社会人になってトレーニングをやめたら、体の老化や体重増加を感じて、これは意識改革しなきゃと思ったんです。今は筋トレが生活に欠かせないものになっています。
竹下 今でもラグビーがすぐできそうな体をされていますよ。
笹川 筋トレってやればやっただけ結果がすぐ見えるんですよね。勉強や仕事は努力しても必ずしも報われるわけじゃないけど、筋トレはやっただけ筋肉がついて体が変わる。生きていく中で、努力と結果がこんなにはっきり見えることってなかなかないと思うんです。それが筋トレの面白さで、僕にとっては最高の楽しみなんですよ。
Shohei Sasakawa’s
Basic Time Schedule
(Week Days)
竹下 ウイスキーづくりとは真逆の世界ですね。
笹川 本当に。ウイスキーはじっくり時間をかけて結果が出るけど、筋トレは即効性がある。筋トレの成果は努力にきちんと比例する唯一のものかもしれません。
竹下 筋トレ以外でリフレッシュする方法はありますか?
笹川 ランニングやゴルフが好きですね。ゴルフはカートに乗らずに歩くことを意識していて、自然の中を歩きながら体を動かすのが気持ちいいです。あと読書も好きで、特に漢詩や論語、禅の教えなど古典を読むのが最近の趣味です。昔の書物には人生や幸せについて深い示唆が多いので、それを読みながら心を落ち着かせています。
竹下 そうした古典から学んだことで、皆さんに伝えたいことはありますか?
笹川 僕が大事にしている言葉が二つあります。まず一つは「吾唯知足(われただたるをしる)」という言葉で、これは「足るを知る」ことの大切さを示しています。人は欲望が尽きないもので、金銭や成功、物欲がエスカレートし、満たされることがありません。SNSで他人と比べて嫉妬したり不安になることも多い。でも、日々の小さな幸せに感謝して満たされていることを知ることが、幸せの第一歩だと思います。
もう一つは「青山元不動、白雲自ら去来す」という言葉で、青山は揺るがない心、白雲は悩みや不安を表しています。悩みは誰にでもあるけど、心がそれに動かされずに揺るがないことが重要だということです。悩みや不安は避けられないが、それを受け入れ、抗わず流すことができれば楽になる。人の悪口や噂を気にしすぎず、「そういう人もいるよね」と受け流せるマインドがあれば生きやすくなると思います。
僕はもともとポジティブな性格で、ネガティブに引きずられたことはありません。悩みには変えられるものと変えられないものがあると思っていて、例えば他人の感情を変えることはできないし、過去も変えられない。だから変えられないことに悩んでも無駄だと割り切っています。目の前の選択肢の中で自分が変えられることだけ悩めばいい。それに気づけるのはとても大事なことだと思います。
竹下 まさにそうですね。ネガティブになりやすい人たちがどうしたら苦しみから逃れられるか、僕らはメンタルヘルスの分野でよく考えています。笹川さんのお話は非常に参考になります。
笹川 人生は100年あるし、失敗したっていくらでもやり直せる。目の前の不安は大したことじゃないんだよ、どんどん前に進もうぜ、というマインドが大切だと思います。
竹下 そうしたチャレンジャー精神がなければ、ウイスキーづくりのような挑戦はできないですよね。
笹川 本当に。銀行から資金調達しようとしても「5年間も収入がないなんて馬鹿じゃないか」と言われるようなビジネスなので。10年、20年、100年先を見据えてやるこのロマンに飛び込むのは、楽観的な性格じゃないとできないと思います。
竹下 まさに今の時代に必要なマインドだと思います。
笹川 「馬鹿になれ」とまでは言いませんが、石橋を叩くだけでなく、火中の栗を拾うようなチャレンジ精神が必要です。好奇心と闘争心を持って、楽観的にどんどん飛び込んでいくことが、幸せに生きるコツだと思います。
竹下 本当に楽しそうですね。
笹川 楽しいですよ。人生は常にハッピーです。幸せは心の持ち方次第だと思います。
竹下 だからこそ、笹川さんのプロジェクトは誰でもできるものじゃなく、チャレンジャー精神や縁の力もあるんでしょうね。
笹川 本当に、自分自身、能力も実力もないと思っていて、ここまで来られたのは運と縁のおかげです。人の縁、土地との縁、水との縁、スタッフとの縁に恵まれて、出資者も含めて多くの人の支えで今の自分があります。縁を引き寄せるためにも自分がポジティブであることが大事だと思っています。
笹川正平(ささかわ・しょうへい)
1980年東京生まれ。2005年、大学卒業後(株)フジテレビジョン入社。
「S M A P✖S M A P」「キスマイBUSAIKU」「ジェネレーション天国」など数々のヒット番組のプロデュースを担当。2017年、フジテレビを退社。江戸時代から続く酒造業を営みながらも祖父の代で廃業した家業の再興を目指し「SASAKAWA WHISKY 株式会社」を設立。「日本最高峰の水源である富士山の天然水を贅沢に使用したウィスキーを造りたい」と山梨県富士吉田市に「富嶽蒸溜所」を開設。木桶発酵、直火式蒸溜、富士樹海熟成など、伝統的製法を堅守しながら、新たな時代を担う若い作り手達の自由な発想と挑戦を融合させ、富士北麓の大地から世界に誇る次世代のジャパニーズウィスキーを創造中。
Deportare Special Experience Event
本対談を記念し、2025年11月29日には、現在非公開の SASAKAWAWHISKY 富嶽蒸溜所にて、Deportare Special Experience Event が開催されました。
SASAKAWA WHISKY 代表 笹川正平氏の案内とともに“未来のジャパニーズウイスキー”を体感した後、自由が丘「バッボアンジェロ」オーナーシェフ、アンジェロ・コッツォリーノ氏による南イタリア料理を楽しみ、食後には、綾戸イサ氏の「まいど屋アフロ珈琲」Deportare Clubオリジナルブレンドのコーヒーが振る舞われました。
さらに、ジャズシンガー 綾戸智恵氏のサプライズLiveが、特別な空間に響き渡り、参加者の心に深く刻み込まれる、忘れられない瞬間が生まれました。